物理ゲルの構造解析(1)-κ-カラギーナンのゲル形成-
種々の特性を持つ多糖類は、広く食品添加物として利用されていますが、その中でも紅藻類から抽出されるカラギーナンはゲル化剤、増粘剤などに最も使用されています。
カラギーナンは、基本的にはガラクトース基に硫酸基がついた構造をしており、ついた硫酸基の数により、κ(カッパ)、ι(イオタ)やλ(ラムダ)などの種類に分けることができます。今回、硫酸基が1個ついたκ-カラギーナンを用いて、形成したゲルを動的光散乱測定-部分ヘテロダイン法を行い、構造解析を試みました。
ポアサイズ0.1μmのフィルターでろ過した蒸留水を90℃に温め、κ-カラギーナン(富士フィルム和光純薬㈱製)を濃度1%になるように少しずつ溶かし、90℃の恒温槽で約1時間かけて、完全に溶解させました。溶液を室温に放置して、ゲル化させ、測定に使用しました。測定は溶解しゲル化させた当日と3日後、6日後、7日後および25日後に行いました。測定点は100点、各測定位置での動的光散乱測定の積算回数は25回です。ELSZneoゲル測定モードで部分ヘテロダイン法での測定・解析から、ゲル網目のゆらぎに由来する協同拡散係数の経時変化を求めました。また、アインシュタイン-ストークスの式より、網目相当の大きさを求め、検討を行いました。
図2にゲル形成後のゲル網目に由来すると思われます協同拡散係数(網目の大きさ)の経時変化を示します。ゲル形成直後から、おおよそ1か月経過した協同拡散係数はほとんど変化がなく、一度ゲル形成すると安定したゲル構造を保つことが考えられます。アインシュタイン-ストークスの式から計算したゲル網目に相当する大きさは約1.3μmと算出され、架橋点を有し3次元網目構造を形成する化学ゲルに比べますと100倍から1000倍ぐらい大きな値が得られています。
図3にゲル形成直後の見掛けの拡散係数の散乱強度依存性、図4に見掛けの拡散係数から真の拡散係数および散乱強度の動的成分を算出するプロットを示します。図3より、求められた見掛けの拡散係数はおおよそ2倍の間で得られていますので、ゲル網目のユラギから得られるホモダイン成分と、ゲル不均一構造に由来するヘテロダイン成分を検出していることを示すデータであると考えられます。
また、図4に示す見掛けの拡散係数から真の拡散係数および散乱強度の動的成分を算出するプロットから、ほぼ直線のプロットが得られており、合理的な結果になっています。算出された網目相当の大きさは他の方法で検証する必要があると思われますが、絡み合った二重らせん構造の空間領域の大きさに相当すると考えられます。