高分子フィルムの構造解析に有用な小角光散乱法
2.小角光散乱法
小角光散乱法とは、小角側(散乱角度:θ < 5°)の散乱パターンを取得することによって、散乱体の大きさや構造評価を行なう技術であり、例えばフィルムの内部構造を反映した光学的不均一性に依存した散乱パターンが得られます(図2参照)。
図2.小角光散乱技術の概略図
不均一性としては密度揺らぎに対応した分極率や屈折率の揺らぎ(多成分のポリマーブレンド物、結晶・非晶相の密度差)や光学異方性の有無(結晶構造の有無や性質)が考えられます。光学異方性による散乱は、小角光散乱法に特徴的なもので小角X線散乱等には見られない散乱です。例えば、密度揺らぎによるスピノーダル分解過程など規則正しい構造を有しているものはリング型、海島構造のように不規則な構造を有しているものは円型となります。また、光学異方性による結晶性高分子で球晶構造を生成しているものはクローバー型、針状構造(フィブリル構造)を生成しているものはX型・十型の散乱パターンがそれぞれ得られます(図3参照)。このように散乱パターンからサンプルの構造を推定でき、さらに、得られた散乱パターンに各理論式①~③を適用することにより、構造の数値化を行なうことが可能です2)。針状構造の解析手法は参考文献3)に記載があります。
図3.各種構造に対応した散乱パターン画像
●規則正しい構造(リング型)
・・・①
●海島構造(円型)
・・・②
●球晶構造(クローバー型)
・・・③
※散乱ベクトル
・・・④
d:相構造の周期、q:散乱ベクトル、λ:波長、I(q):散乱ベクトルqにおける散乱強度、a:相関長、Δα:各相の分極率の差、RHv:球晶半径、θ:散乱角度、θmax:最大強度となる散乱角度
小角光散乱法では、各種偏光条件下で散乱強度分布を解析することにより、高分子フィルムの内部構造を密度揺らぎのみならず光学異方性の見地から解析することができます4)。代表的な偏光条件は、偏光子と検光子が平行な場合のVv (Vertical-vertical)散乱測定および偏光子と検光子が垂直な場合のHv(Horizontal-vertical)散乱測定です。Vv測定はサンプルの密度揺らぎおよび光学異方性(結晶性,複屈折)の散乱情報が、Hv測定はサンプルの光学異方性の散乱情報が得られます(図4参照)。
(上図)Vv散乱 (下図)Hv散乱
図4.Vv散乱とHv散乱の概略図
関連製品
高分子相構造解析システム PP-1000 |