【入門】 ゼータ電位
1.ゼータ電位とは?
液体中に分散している粒子の多くは、プラスまたはマイナスに帯電しています。電気的に中性を保とうとして粒子表面の液体中には、粒子とは逆の符号を持つイオンが集まってきます。そのようなイオン群が、粒子表面を取り巻いて球殻状に集まったとします。荷電を持った層を、反対荷電を持った層が取り巻くことになります。このような状態を、「電気二重層が形成された」と表現します。コンデンサーに電気が蓄えられた状態は、このようなものと考えられています。
しかし、液体中のイオン層は、このように単純ではありません。イオンの分布は熱運動のために攪乱されています。そのため、表面近傍では反対荷電の濃度が高く、遠ざかるにつれて次第に低下してゆきます。粒子と同荷電のイオンは、逆の分布を示しています。そして、粒子から充分に離れた領域では、プラスのイオンの荷電とマイナスのイオンの荷電が相殺して、電気的中性が保たれています。上記のコンデンサー型の二重層に対して、液体中において現実に見られるものを、"拡散電気二重層(diffused electric double layer)"と呼んでいます。反対荷電のイオン分布が、表面から離れるにつれて、次第に<ぼやけてゆく(diffused)>ような電気二重層であることを、このような用語で表現したのです。
これに較べて、内側の粒子表面のイオン分布は、ぼやけてはいません。拡散電気二重層は、片側の状況に注目しての命名です。この側を、"拡散層"と呼びます。表面から直ちに、拡散層が始まっているとは限りません。一部のイオンが強く表面に引き寄せられて、固定されている場合が多いでしょう。このような層を"固定層"と呼んでいます。これを、シュテルン層と呼ぶこともあります。
最初に言及しましたように、液体中に分散された粒子は、多くの場合に荷電を持っています。そして、粒子の分散状態の安定性は、しばしば荷電状態によって、左右されます。この場合、何をもって粒子の荷電状態の指標としたらよいでしょうか。それに対する回答として、定義されたのがゼータ電位です。問題となるのは、固定層まで剥ぎ取った裸の粒子の荷電状態ではなさそうですし、これを直接に測定することはできそうにありません。粒子と一緒に移動する荷電は、粒子の挙動に直接に影響すると思われますし、これなら測定もできそうです。粒子は、固定層そして拡散層の内側の一部を伴って移動すると推定できます。この移動が起こる面を<滑り面>("ずり面"ということもある)と呼んでいます。
粒子から充分に離れて電気的に中性である領域の電位をゼロと定義します。<ゼータ電位(zeta-potential)>は、このゼロ点を基準として測った場合の、滑り面の電位と定義されています。微粒子の場合、ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性は高くなります。逆に、ゼータ電位がゼロに近くなると、粒子は凝集しやすくなります。そこで、ゼータ電位は分散された粒子の分散安定性の指標として用いられています。
近年、微粒子は素材として使用されることが多くなってきました。その機能性向上のため、表面改質の研究が盛んに行われています。高分子化合物、界面活性剤、あるいは異種微粒子などを表面に吸着させる、あるいは表面を化学処理するといった試みがなされています。また、分散媒のpH値などの条件の検討も、子細に検討されています。粒子の安定性の指標としてのゼータ電位の重要性は高まってきています。
ゼータ電位の詳細に関しては以下の書物を参考ください:
北原文雄、古澤邦夫、尾崎正孝、大島広行、
「Zeta Potentialゼータ電位:微粒子界面の物理化学」、サイエンティスト社、1995。
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