インライン分光計測システム -品質を向上する為に-
2.分光とは
(1) 光の特徴
光には粒子と波の性質があります。光を波として表現した場合、波の山から山または谷から谷までの距離を波長と呼びます(図1)。私達が普段目にしている太陽光や蛍光灯の光には、さまざまな波長の光が含まれています。
(図1)
光は波長により次のように分類されます(図1)。波長が380 nm ~ 780 nmの光は可視光線と呼ばれます。名前の通り人間の目が認識することができる光で、波長の短い方から紫、藍、青、緑、黄、オレンジ、赤となります。私達が見ている物体の色は、可視光線の波長ごとの強さのバランスで決まります。波長が380 nmより短い光は紫外光線、波長が780 nmより長い光は赤外光線と呼ばれ、人間の目では認識する事はできません。
(2) 分光の定義と分光の例
分光とは、さまざまな波長が含まれている光を波長成分に分けることです。分光の例としては、プリズムが挙げられます(図2)。プリズムは、プリズム内の波長による屈折率の差を利用して光を分光しています。波長が短くなるに従い屈折率が大きくなり、光が曲がる角度(屈折角)が大きくなります。この屈折角の差により、分光されます。
(図2)
(3) 当社の分光計測器
当社で提供している分光計測器は、プリズムとは異なる方法で光を分光しています(図3)。まず、光ファイバーで計測する光を受光し、検出器へ導きます。検出器に入った光はグレーティング(回折格子)に照射され、各波長成分に分光されます。分光された光は、1列に並んだ光検出素子により波長成分ごとに検出されます。
(図3)
グレーティングは表面に複数の溝が刻まれた光学素子であり、波長λの光がグレーティングに角度iで入射した時、角度θの方向に回折されるとすると
mλ=d(sin i±sinθ) (m:次数、d:溝の間隔)
が成り立ちます(図3)。入射光と回折光が回折格子の面の法線に対し、同じ側なら正の符号、異なる側なら負の符号となります。グレーティングによる分光は、光の波長による回折角度の差を利用して行っています。
(4) 分光計測で分かること
以下に分光計測を行う事によって分かる事を説明します。
1.分光透過率
物体に光を照射した時に物体を透過した光を計測することで、物体の透過率波長特性を知る
ことができます。
2.分光反射率
物体に光を照射した時に物体の表面で反射された光を計測することで、材料の反射率波長
特性を知ることができます。
3.膜厚
基板に薄膜が塗布されたものに光を照射した時、薄膜表面での反射光(R1)および薄膜・基板
界面での反射光(R2)があります(図4)。この時、R1とR2の波の山と山が重なると光は強め合い
ます。
一方、R1とR2の波の山と谷が重なると光は打ち消されます。この結果、分光反射率は波長に
より変化し、波の形となります。このようなスペクトルを干渉波形と呼びます。この干渉波形
の形は、材料の屈折率および薄膜の膜厚により固有の波形を示します。従って、材料の屈折率
が分かれば薄膜の膜厚を計測することができます。
(図4)
4.偏光(リタデーション)
太陽光やランプの光などの自然光は、さまざまな方向に振動しています。さまざまな方向に振
動している光から、ある特定の方向に振動している光のみを取り出すことができる光学素子
を偏光子と呼びます。
偏光子を利用することにより、位相差フィルムのリタデーションを計測できます(図5)。
(図5)
位相差フィルムとはx軸方向とy軸方向で屈折率が異なるフィルムで、フィルム内をx軸で振
動する波とy軸で振動する波の速さに差が生じます。その結果、フィルムに入射する前に
揃っていた位相がズレます。このズレのことを位相差(δ)といい
δ=2πΔnd/λ (Δn:屈折率差、d:フィルムの厚さ)
が成り立ちます。また、屈折率差(Δn)とフィルムの厚さ(d)の積(Δnd)をリタデーションと
いい、Δnが波長分布を持つことからリタデーションも波長分布を持ちます。
リタデーション計測は、入射光用および透過光用の偏光子を透過軸が垂直になる様に配置
し、その間に位相差フィルムを設置して行います。フィルムの位相差の大きさにより透過光
用の偏光子の透過軸方向の強度が変化します。位相差の大きさは、光の波長、屈折率の差お
よびフィルムの厚さによって決まるため、分光透過率計測結果からリタデーションを計測す
ることができます。
5.物体色(透過色、反射色)
分光透過率または分光反射率スペクトルのデータから、JIS規格に基づいた計算方法を用い、
色を数値化して表現することで物体の透過色または反射色を知ることができます。例として、
Y,x,y表色系が挙げられます(図6)。Y値は明るさを示し、xおよびyの値で色を示します。
(図6)
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