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【入門】分光法による膜厚解析

5.エリプソメトリー

この測定法の歴史はたいへん古く、19世紀まで、さかのぼることになります。近年、分光エリプソ法が盛んに用いられるようになった理由は、解析法の進歩にあります。つまり、古くて新しい計測法がエリプソメトリーです。

単一波長のエリプソでは、膜厚値をtanψとか、△などのエリプソパラメータから単純計算しているのですが、多層膜になるとモデル式が複雑になり過ぎるため、簡単に求めることができなくなってきます。そこで、波長を変化させて、パラメータ・フィットを行い、多変量解析することにより、多層膜の解析も可能になってくるわけですが、近年ではパソコンの進歩が解析時間を飛躍的に短縮させたため、盛んに用いられるようになってきました。

エリプソイドは楕円の意味を持ちます。光が波であるため、直行する方向の偏光の位相が90度ずれると円偏光になります。下図に示すように、光の進行方向から偏光の方向をみると、時間と共に左回転しています。位相ズレが90度以外では、楕円になります。偏光の解析は、この楕円偏光を解析するため、エリプソメトリーと呼ばれています。光は波の性質を持ちます。つまり、強度と位相、波長の三つの情報をフルに活用したのが分光エリプソメトリーなのです。

水平偏光、垂直偏光、円偏光(垂直偏光+水平偏光)
 

なぜ楕円偏光を解析すると膜厚が求められるのでしょうか? P波とは反射面の法線に平行な偏光で、S波とは法線に直角な偏光成分の名称です。膜厚測定の場合には、分光エリプソ測定は、常に一定の入射角を持たせた反射測定で行います。P波とS波では表面での反射率が異なることに加え、反射率の比は光の干渉による効果が掛けられ、tanになります。また薄膜の媒体中での光の進行速度の違いにより、位相差を生じます。これに加えて、反射時にP波とS波では位相の変化が異なるため、両者に位相差が生じます。従って、位相差も膜厚により変化します。これが分光エリプソ法による膜厚測定の原理です。

エリプソの原理説明を、式を用いないで説明するのはたいへん難しく、結局Azamusの書いた電磁気学的説明が一番理解し易いと思います。つまり、この原理は数式を追っていくのが一番正確で判りやすく、数式を利用しない場合には、スペクトル形状からの説明が次に理解し易いと思われます。

分光エリプソ法による屈折率や膜厚測定は、非常に感度の高い方法ですが、膜厚が大きい場合には、わずかなnの違いがスペクトルの変化として表れてきます。この特性を生かして、膜界面の状態とか、膜の縦方向の密度勾配を議論することも多いのですが、このような詳細解析には、若干のリスクがあります。スペクトルを変化させる要素が色々あるため、特に膜表面の状態に大きく左右され、どれが本当の膜モデルか不明になることがあるからです。

分光エリプソ法にも限界があります。膜が数nm程度の薄膜の場合には、光の波長の百分の一程度となり、ndは求められるのですが、両者の分離が困難になります。この欠点は分光法に共通の問題点でもあります。

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