ナノろ過膜のファウリング挙動
生活用水や飲料水など我々が普段利用する水は、原水(地下水、河川水、湖沼水、海水など)を浄水技術によってきれいに水処理されたものが供給されています。浄水技術には、ろ過膜や凝固剤などの材料・化学技術、汚泥の攪拌装置やオゾン発生装置、水質測定機器などの機械技術、これらをコントロールする制御技術など多くの技術により成り立っています。特に、浄水技術には、原水に含まれる夾雑物や微生物などの不純物を除去し、安全な飲料水を製造する技術が求められています。
水処理技術の一つに、凝固剤添加と精密ろ過膜を組み合わせた前処理をした後、ナノろ過膜(NF膜)で不純物を除去する方法があります。膜ろ過設備における最大の課題は膜ファウリング(目詰まり)であり、除去効率の低下、流体抵抗の上昇によるエネルギー消費、定期的な膜交換によるコスト増加などの要因となっています。膜ファウリングを抑制するためのろ過膜の研究は世界中で盛んにおこなわれています。ファウリングの原因の一つに、腐植物質や多糖類、タンパク質などから成る溶存有機物(Dissolved Organic Matter:DOM)の表面吸着および表面沈殿が挙げられ、それらのほとんどは弱い負電荷を持っています。膜ファウリングを減少(防汚性の向上)させるには、膜表面を親水性にすることが知られています。それは、膜表面の負電荷を大きくし、負電荷を持つDOMとの静電反発効果によってファウリングが減少することによるものです。その指標となる膜表面のゼータ電位は、ろ過膜の性能や膜汚染の挙動を予測する重要な要素のひとつです。
ゼータ電位測定システムを用いて、飲料用水処理施設でおよそ1年間使用したNF膜の表面のゼータ電位を測定しました。また、接触角計で接触角測定し膜表面の親水性・疎水性を評価しました。さらに、各種溶液での洗浄効果を評価しました。それぞれの過程でのNF膜のゼータ電位および接触角を表1に示します。ファウリング形成したNF膜のゼータ電位は未使用のものと比べ絶対値が大きく減少し、接触角は大きくなっていることから、親水性から疎水性へ変化していることが言えます。これらの結果から、疎水性成分がNF膜のファウリングに影響していることが考えられます。次に、NF膜に付着した汚れを落とすことで、ゼータ電位、接触角が回復するかを確認するため、イオン交換水、酸性溶液(0.1mol/L HCl)、アルカリ性溶液(0.1mol/L NaOH)でそれぞれ洗浄した後のゼータ電位および接触角を測定しました。アルカリ性溶液で洗浄したNF膜が顕著に変化し(ゼータ電位:-18mV、接触角:49°)、洗浄効果が示されました。
このように、膜ファウリングのメカニズム解明には静電的な相互作用による観点から膜表面ゼータ電位を評価することが有効であり、膜材料の研究開発にも応用できます。